小学生の時、スター・ウォーズは正義のジェダイと悪のダークサイドが戦うシンプルなヒーロー映画だと思っていました。
大学生になってスター・ウォーズ1~3を観て、政治的な話がベースの映画なのだと分かりました。
そして先日、『スター・ウォーズに学ぶ「国家・正義・民主主義」 岡田斗司夫の空想政治教室』を読んで、パルパティーンによる独裁は古代ローマ時代のカエサルの話と同じであり、ジェダイは絶対的なヒーローではなく非情な集団でもある。
またアナキンはジェダイの中でももっとも優しい人間であるといった、簡単には語りつくせないスターウォーズがわかったのです。
スター・ウォーズは古代ローマ時代のカエサルによる独裁と同じ
ローマの元老院を機能不全にして実権を握ったカエサルと、銀河皇帝になったパルパティーンがやったことは、まったく同じなんです。
スター・ウォーズに学ぶ「国家・正義・民主主義」 岡田斗司夫の空想政治教室
スター・ウォーズの1~3は銀河共和国が、パルパティーンの独裁によって解体し、銀河帝国が作られるまでの話です。
これはローマ時代のカエサルによる独裁とプロセスが同じなのです。
古代ローマでは共和制がとられていましたが、ローマが巨大になりすぎ、議員が多くなりすぎたために議会が機能しなくなっていました。
そこでカエサルは「ローマを効率的に運営するためには独裁が一番だ」と考え、独裁によってローマを統一するのです。
これはそのままスター・ウォーズに当てはまります。
惑星ナブーが通商連合に包囲された時、アミダラ議員がその対処を議会に持ち掛けます。
円盤のような席に各星の議員がいて、ああでもないこうでもないと言い合って、結局何も決まらないというシーンです。
最終的に議長の不信任決議を出し、それが採択される。
その後パルパティーンが議長となり非常事態宣言を出すことで、独裁状態ができあがります。
『エピソード1/ファントムメナス』でも元老院の機能不全が描かれます。
ナブーのアミダラ女王が通商連合の非道を元老院に訴えても、元老院ではいっこうに話がまとまらず、その間もナブーでは人が死んでいく。
だからアミダラ女王は元老院に失望し、パルパティーン独裁への道を開いてしまいました。
スター・ウォーズに学ぶ「国家・正義・民主主義」 岡田斗司夫の空想政治教室
ダークサイドの人間であるパルパティーンは、絶対悪のように見えます。
しかしパルパティーンの独裁状態は、議会の多数決によって決まっているのです。
また暴力的ではありましたが、機能しない議会を独裁によって効率的に運営できるようにした、という見方もできます。
こう考えるとダークサイドの力を借りたパルパティーンは、絶対の悪とはいないのです。
ジェダイは正義の味方ではない、フォースの味方でしかない
スター・ウォーズにおけるジェダイといえば、悪者を倒す絶対的なヒーロー。正義の味方です。
僕も今までそのように思っていました。
しかし実は単なる正義も味方ではなく、掟に実直に従う冷酷な集団なのです。
その一つの例として『スター・ウォーズに学ぶ「国家・正義・民主主義』では、「アナキンの母親を助けようなしないジェダイ」が説明されています。
タトゥーウィンにいったクワイガンは、最初はアナキンと母親、両方を助けようとしましたが、交渉がうまくいかずアナキンしか助けられませんでした。
ジェダイであれば、母親も一緒に助けることなんて難しくはないでしょう。しかし助けなかったのです。
なぜアナキンの母を可哀想と助けてはいけないか。もし助けるなら「奴隷制度はフォースの流れ的に正しくない」と判断して、全奴隷を解放すべきなんです。しかし、それをやればナブーへの内政干渉になってしまう
スター・ウォーズに学ぶ「国家・正義・民主主義」 岡田斗司夫の空想政治教室
“ジェダイが正義の味方ではなく、あくまで「正しいフォースの味方」”なのです。
アナキンはめちゃくちゃ人間的
アナキンは他のジェダイほど非情に徹しきることができません。人を愛し、愛するがゆえに失う不安に駆られる。ムキになったり、怒ったり、嫉妬に駆られたりもする。人間的な感情に苦しめられ、最後にはダークサイドに墜ちていく。
スター・ウォーズに学ぶ「国家・正義・民主主義」 岡田斗司夫の空想政治教室
家族、愛する人が危険な目にあっていても、ジェダイの掟にそぐわない場合は助けにいくことができません。
身近な人が危険な目にあっていても助けにいけない。そんな非情さが求められるのがジェダイです。
その非情さに苦しんだのが、きわめて人間的で優しいアナキン・スカイウォーカーです。独り立ちしてからずっと母親のことを思い続けます。
パドメと一緒になれば四六時中パドメのことを考えています。マスターであるオビワンからは、「任務を優先しろ」としょっちゅう怒られていますよね。
母親が好き、助けたい、失うのが怖い。
パドメが好き、助けたい、失うのが怖い。
つまりアナキンはきわめて人間的な人間なのです。
だからこそ非情で、非人間的な面のあるジェダイの掟との葛藤にアナキンは苦しみ、そしてダークサイドに付け込まれる隙が出てしまうわけです。
スター・ウォーズが10倍楽しくなる
「スター・ウォーズに学ぶ「国家・正義・民主主義」 岡田斗司夫の空想政治教室」
では他にも、
「ヨーダは失敗してばかり」
「スター・ウォーズはデス・スターを作っては壊す物語」
「なぜレイア率いる反乱軍はデス・スターを作らないのか?」
などスター・ウォーズについての解説がなされています。
これまで僕はスター・ウォーズを、民主主義と独裁国家、独裁国家と反乱軍、
チャンバラごっこ、くらいにとらえていました。
しかしそれ以外にもアメリカ建国の精神に近い話があったり、ジェダイという非情な集団の話があったりと、
簡単には語れない奥深いストーリーが隠されているのだと気づきました。
スター・ウォーズだけでなく、EU離脱をガンダムにたとえて解説してくれたり、アメコミのヒーロー像からアメリカという国家を解説してくれたりと、興味が深い話がされている著書です。
政治や国家についての考え方と一緒に、SFの楽しみ方も解説されています。
この本を読んでおけば、これから上映されるスター・ウォーズはもちろんのこと、あらゆるSF映画も10倍楽しめるようになるはずです。